帝国の贅沢と徴発の影
金ボタンを付けた従業員が、酒瓶が並ぶ銀色のワゴンを押して現れた。将校は、緻密なカットが施されたデキャンタを手に取り、中で琥珀色の酒が揺れるのを眺めた。帝国時代に建設されたこのホテルの無駄な贅沢さに、将校は思わずため息をついた。
その瞬間、彼は隊が徴発した街のホテルを思い出した。あの建物も同様に豪華な造りだったが、今では全く異なる。通風口から反逆者や忌まわしいJの呻き声と嘆きが聞こえてくるあの場所とは違い、この森の中のホテルを包むのは、雨風と葉擦れの音だけである。
恭しき従業員と不意の宿泊者
金ボタンは胸に手を当て、「なにかお困り事がありましたら、なんなりとお申しつけください」と恭しく述べた。その晩、意図せず森のホテルに泊まることになったのは、将校とその部下だけではなかった。
将校を「皇帝の部屋」へ案内した後、金ボタンが地下の休憩室へ向かうと、頭からバスタオルを被った「鳥の巣」が、居心地悪そうに木の長椅子に座っていた。傍らには総支配人が立っており、レストランと厨房の片付けがまだ途中の休憩室は、彼ら二人だけだった。
震える元従業員の告白
「どうした」と金ボタンが驚く声と、「森を歩いているのを見つけてな」と総支配人が言うのが同時だった。「訊いたら、元従業員だって言うから乗せてきたんだ」と総支配人は続けた。
鳥の巣は全身を震わせていた。「寒いか」と、金ボタンは賄い用の大鍋からチーズ入りのパン団子が浮かぶスープを深皿によそい、鳥の巣の前に置いた。しかし、鳥の巣は手をつけず、震えながら口を覆い、「あいつらがいた」と呟いた。その手はひどく荒れていた。
没収されたホテルの悲劇
「ああ、軍人たちなら部屋に放り込んできたから大丈夫だ。下っ端は酒と葉巻に浮かれているし、将校は煙が見張っている。部屋を出れば知らせがくる」と金ボタンは鳥の巣の肩を叩いた。「それより、お前、客室係がそんなささくれだらけの指先でどうする。手袋は支給されないのか」
「もう、僕の働いていたホテルはない……」と、鳥の巣は消え入りそうな声で答えた。総支配人が言葉を継ぐ。
「隣国の法律で、Jの財産は没収された。Jが経営する店舗や企業は、総統やその党と懇意にしていた者たちに分配された。大手優良企業は彼らの支配下だ。『Jのホテル』は経営者がJだったからな、まっさきに徴発されて、国家保安局の建物になったらしい」
森のホテルの静寂の中、過去の徴発と没収の影が、今この場所に集う者たちの運命を静かに揺さぶっていた。雨音だけが、その重い沈黙を包み込んでいく。



