スモーキングルーム第158回:将校とホテルマンの緊迫した心理戦が描かれる
スモーキーム第158回:将校とホテルマンの心理戦 (01.03.2026)

スモーキングルーム第158回:将校とホテルマンの緊迫した心理戦

千早茜による連載小説「スモーキングルーム」の第158回が公開された。本編では、軍服姿の将校がホテルを訪れ、総支配人との面会を要求する場面から物語が始まる。

不在の総支配人と巧みなホテルマン

将校がホテルの玄関ホールで大声を上げて総支配人を呼び出すと、しゃがんだ姿勢から顔を上げた金ボタンのホテルマンが「あいにく外出しております」と冷静に応答する。将校が「絶対に今日戻るんだな」と詰め寄ると、ホテルマンは「夕刻には、と聞いております」と答える。さらに将校が「電報でも、電話でも、なんでもいいから呼び戻せ!」と怒鳴りつけると、ホテルマンは立ち上がってにっこりと笑い、「かしこまりました。では、お車をお預かりしますね」と将校の部下に手を差し出す。部下がつられて車の鍵を出そうとした瞬間、将校は「自分で動かせ!」と怒鳴りつけ、スモーキングルームへと向かう。

スモーキングルームでの緊張感あるやり取り

ホテルマンが先に立ち、「コーヒーよりお酒ですね。葉巻もウイスキーも一通りの銘柄は揃えてございます」と小賢しい口調で話しかける。将校は「知っている」と吐き捨てるように答える。まだ日が高い時間帯のスモーキングルームは人気がなく、バーカウンターには初老の男性客が一人いるだけだった。常連客のようでマスターと談笑していたが、将校の軍服を見ると声を潜めた。

将校は横目で初老の男を見つめる。裕福そうだが、J(スパイ)には見えず、経営者ならばすり寄ってくるはずだと考えた。独特の猫背が気になり、学者かもしれないと推測する。すると、ホテルマンが囁くように「街の交響楽団の指揮者です」と教える。この街は歴史的に名高い音楽家を多く輩出しており、有名な楽団関係者は市民からの人気が高いため、簡単には手出しできない事情がある。将校は「なるほど」とつい頷いてしまい、ホテルマンの配慮に苛立ちを覚える。これだからホテルマンは忌々しい、と内心で思う。

ホテルマンの巧妙なサービスと将校の複雑な心境

天鵞絨のソファに体を預け、脚を組んで煙草を咥えると、小さな炎がなめらかに差し出される。ホテルマンが「お待ちいただくので、お気持ちです」と言い、将校が以前ここで飲んでお代わりをしたウイスキーをローテーブルに置く。流れるような行き届きぶりは、拒む暇を与えない。抗えば不粋者として陰で冷笑されそうな気配さえ感じさせる。結局、ホテルマンの手の上で寛がされることになるのが腹立たしい、と将校は思わずにはいられない。

本編は、将校とホテルマンの間の緊迫した心理戦を中心に、スモーキングルームという閉ざされた空間で展開される人間模様を繊細に描き出している。ホテルマンの巧みな対応と将校の焦燥感が交錯する様子は、読者に緊張感と興味を抱かせる内容となっている。