知床の川再生、手作業でダム改良
知床の世界自然遺産登録から20年。川には100か所以上のダムなどの河川工作物があり、登録時には最大の課題とされていた。審査機関である国際自然保護連合(IUCN)はダムの撤去を強く求めてきた。
林野庁や北海道は当初、ダムの撤去どころか改良にも消極的だった。サケマスが遡上できる魚道を整備すれば十分と考えられており、それではさらに構造物が増えることになる。登録前年の2004年、専門家による助言組織「知床世界自然遺産候補地科学委員会」(現・知床世界自然遺産地域科学委員会)が発足。林野庁などに対して、少なくともダム1基は改良するという条件で、河川工作物ワーキンググループ(WG)の座長を引き受けた。
スリット型改良と部分的撤去
WGでは、ダムの中央に切り込みを入れる「スリット型」への改良を提案し、3基で実施する方針が決まった。結果的に5河川13基を改良し、2012年度に完了した。これによりサケマスの遡上は成功したが、より重要なのはダム区間に産卵場所を復活させることだった。
特にIUCNが注目するルシャ川(斜里町)では、高さの低い3基のダム群があり、この区間で産卵床を復元するためには、地下部分を含めた「部分的撤去」が必要だった。北海道もこの提案を承認し、2024年に工事が終了した。
手作業による自然保護
オッカバケ川(羅臼町)では、林野庁北海道森林管理局から「手作業でやりましょう」と提案され、驚いたという。重機を使えば搬入用の道路を新設する必要があり、自然破壊につながるからだ。実際の工事では作業員が道具を抱えて山に入り、ダムを徐々に撤去していった。この試みにIUCNは驚嘆し、絶賛した。
野生魚回復への期待
近年、遡上するサケマスは激減している。これは人工孵化事業のあり方を考える契機でもある。知床の野生魚は長い環境変動の中で適応しながら生き続けてきた。この視点から見ると、孵化放流への過度な依存は、野生魚が本来持つ遺伝的多様性や環境への適応力に影響を与える可能性がある。これに気づいた漁業者の中には、野生魚を回復させようという動きが出ている。今後に期待したい。
知床モデルの広がり
科学委員会はヒグマ対策、漁業との共生、エコツーリズムなど各分野で専門家集団が提言を行ってきた。議論は全面公開で透明性を確保し、緊張感を持った議論を重ねて政策につなげた。こうした取り組みは日本の世界自然遺産地域では知床が初めてだ。今や「知床モデル」は屋久島や白神山地、小笠原など各地で採用されている。
時代の変化にどう向き合い、対応していくのか。知床は注目されている地なのだ。(聞き手・石原健治)



