連載「働くってなんですか」では、現場の声を通じて現代の労働環境を探る。今回は、ネット通販大手アマゾンの個人事業主として働く配達員に密着し、AIによる管理の実態を報告する。プラットフォーム(PF)ワーカーをめぐっては、労働法令上の「労働者」該当性が議論されているが、現場ではどのような指揮・命令が行われているのか。
横須賀の配達現場:133個の荷物と時間との闘い
神奈川県横須賀市。海と山に囲まれ、階段や坂が多いこの街で、50代の男性配達員が軽貨物車を走らせていた。この日は朝9時から午後3時までの前半便で、133個の荷物を配達する。一軒家や低層アパートが立ち並ぶ住宅街を、数十メートルごとに停車しながら進む。2リットルペットボトル9本入りの段ボールを肩に担ぎ、50段以上の階段を駆け上がる場面も。「心臓破りの階段が多くて、体力が奪われる」と男性は苦笑いする。体重90キロ、身長176センチの体を動かし、息を切らせながらも小走りを続ける。時間との勝負であり、住民に気付かれずに配達するのが理想だという。
アプリ「ラビット」による徹底管理
ハンドルの周りには複数のスマートフォンが並び、アマゾン提供の配達アプリ「ラビット」が稼働する。このアプリは、配達ルートの提示、階段での転落事故防止の注意喚起、「配送不可時の操作」「トラブル時操作」などの業務手順教育動画も提供する。地図上には配達先を示す番号付きピンが並び、午前中指定の荷物には時計マークが付く。配送拠点で荷物のバーコードを読み込むと、自動的に最適ルートと配達順が生成される。「他の運送会社のシステムと比べてもラビットは超優秀。アプリさえあれば初心者でもすぐに仕事ができる」と男性は評価する。
「ラッシュ便」とAIの圧力
午前11時を過ぎると、ラビットの表示が変化した。配送先一覧画面で、11時59分までの午前時間指定荷物に「優先順位」とオレンジ色が表示される。これは「ラッシュ便」と呼ばれ、消費者がアマゾンで注文時に指定すると配達員に反映される。この日は優先荷物が16個。「先に配達しろという指示、これを見ると焦る。でもあと1時間じゃ、こりゃ無理だな」と男性はこぼす。
アプリは配達員の位置を常時把握し、遅れが生じると警告を発する。男性は「AIに支配されている感覚がある」と語る。ルートはAIが決め、時間指定に追われ、常に監視されている。このような管理が、個人事業主としての独立性と労働者性の境界を曖昧にしている。
労働問題の新たな局面
東京大学の隠岐さや香教授(科学史)は、「デジタル従属」という概念が今後の労働問題の鍵になると指摘する。「名ばかり個人事業主」がデジタル技術で増殖し、実際にはアマゾンに完全管理され、命令されている実態がある。この問題は、労働法令の保護が及ばないプラットフォームワーカーの増加と、AIによる管理の強化という二重の課題を浮き彫りにしている。
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