ニコン元社員が未払い残業代760時間分を請求 労基署指導も支払いは僅か7%
大手光学機器メーカー「ニコン」の熊谷製作所(埼玉県熊谷市)において、従業員の労働時間が過少申告されていた問題で、元社員の40代男性が同社に対して、未払いの残業代を支払うよう求めている。男性は約760時間分の残業代を請求したが、会社が支払いに応じたのはそのうちわずか55時間分、つまり約7%のみであった。労働基準監督署の指導が行われたにもかかわらず、このような事態が生じている。
月100時間がサービス残業 上司の指示で長時間労働が常態化
男性は同社で製品開発のリーダーを担当していた際、繁忙期には月150時間から200時間に及ぶ残業を強いられていた。そのうち、上司の指示により約100時間が賃金が支給されないサービス残業だったと明かしている。長時間労働が改善されない状況に耐えかねた男性は、2024年に退職を決意した。
熊谷労働基準監督署は男性の訴えを受け、労働時間が実態より少なく記録されているとして、同製作所に対して改善措置を求める指導を行った。その後、男性はパソコンのアクセス記録を基に算出した約760時間分の未払い賃金を請求した。しかし、会社が提示した支払い額は、労働組合と会社の協定で定められた残業時間の上限を超えない55時間分のみであった。
労基署の指導限界 民事訴訟での立証責任が高いハードルに
未払い賃金の問題に対し、労基署は強制的な調査を行わない。男性が労基署に相談した際には、「行政指導の限界がある」と説明されたという。厚生労働省の担当者も、実態調査は企業と労働者の協力を依頼する形であり、正誤の判断ができない場合があると述べている。
2025年4月には、同社の外部通報窓口から連絡があり調査を依頼したが、会社の主張が通る結果となった。男性は「外部の窓口なのに、理由すら説明がない」と憤りを露わにしている。一方、ニコンの担当者は個別の事案について回答を控えつつ、指導を受け良好な就業環境の実現に取り組んでいるとコメントした。
未払い残業代は社会問題 労働時間管理の不備が指摘される
残業代の未払いは決して珍しいことではない。厚生労働省が2026年3月に公表した調査結果では、残業の割増賃金がすべて支払われていると回答したのは54.9%に留まり、ほとんどまたは全く払われていないと答えたのは計12.3%に上った。
労働問題に詳しい藤原朋弘弁護士は、未払い残業代の請求において、労働基準監督署が対応すべきだが人手不足などで消極的になり、民事訴訟に委ねられる傾向があると説明する。企業側の労働時間管理が不十分な場合、労働者側の主張が認められる判例もある一方で、民事訴訟では労働時間の立証責任が労働者側にある点が課題だ。
パソコンのアクセス記録は有力な証拠となるが、起動時間に業務を行っていたことの立証が労働者側に課せられるため、単体では認められないケースもある。厚労省のガイドラインでは、労働時間の自己申告は例外とし、客観的な記録を基礎とすることを原則としている。藤原弁護士は「使用者側の管理が不十分な場合、労働者側の立証責任を緩和する措置が必要だ」と訴えている。



