教育・NIEの新企画として、今月から月1回、受験に関する話題を発信する「受験の今」がスタートします。初回は、中学、高校、大学の受験がこの10年ほどでどのように変化しているのか、専門家に話を聞きました。保護者の皆さんが経験した入試とは、大きく様変わりしているようです。令和時代の「受験の歩き方」を探りました。
中学受験:中高一貫人気で受験者数が10年で1.4倍に
中学受験は、中高一貫教育の良さが浸透し、特に中部地方で熱が高まっています。愛知県を核とする東海エリアでは、少子化で児童数が減る中でも受験者数は増加傾向にあります。中学受験専門の進学塾「日能研東海」(名古屋市)の藤原康弘企画情報部長は、「高校受験を挟まずに6年間じっくり学べる中高一貫の良さが認知され、中学受験が特別なものではなくなってきている」と話します。
同社によると、愛知県では2026年春入学の私立中学の受験児童数が前年度比241人増の延べ1万4464人となり、10年連続で増加。10年間で約1.4倍になりました。藤原さんは、各私立中学が独自の教育内容をアピールしたことに加え、合格した場合に入学を確約する「専願」の導入や、一つの学校が複数回の受験機会を設けるなどの日程工夫が受験者の掘り起こしにつながったとみています。同県の私立中学の一般入試は、1月上旬から2月第1週まで試験日が設定され、複数の学校を受験できるよう調整されています。
試験内容も変化しています。先にある大学入試を意識してか、思考力や表現力を測るため、国語だけでなく算数や社会でも自分の考えや意見を記述させる問題が増えています。さらに、プレゼンテーション型や口頭試問など、単純な学力以外の力を評価するケースも少しずつ出てきており、藤原さんは「選択肢が増え、受験しやすい環境づくりがさらに進んでいる」と指摘します。
公立でも中高一貫校が登場
愛知県では、私立がつくり上げた受験の流れを公立が強めた面もあります。2025年度から県立高校で中高一貫教育が始まりました。中部地方ではそれまでに静岡、石川、福井、長野、滋賀の5県で中高一貫校が整備されており、愛知県は後発組でした。しかし、25年度に明和高、津島高など4校、26年度に時習館高、愛知総合工科高など4校に付属中学を併設する形で一貫教育がスタート。有力校に相次いで新設されたことが「中学受験を考えていなかった家庭にも広がった要因」とみられています。
国の施策に先立って私立高校の授業料を無償化した東京都や大阪府では、高校からの席を確保しようと中学受験がさらに熱を帯びました。二大都市圏に比べて学校数が少ない中部地方で同様の動きがあるかは未知数ですが、藤原さんは「高校の段階が無償になるならと、私立を検討する家庭が増える可能性は高い」と分析します。
志望校選びのポイント
一方、受験熱の高まりに対して、藤原さんは「中高一貫校は大学受験の予備校ではない」と強調します。大学合格実績や偏差値で学校の良さを見てしまいがちですが、実際に学校を訪問して雰囲気を感じ、「通っている中高生の姿など数字以外のものを見てほしい」と言います。「中高の6年間は人格形成に大事な思春期のただ中にある。この期間を充実して過ごせるか、成長できるかといった視点で学校を選んでほしい」とアドバイスを送ります。
高校受験:無償化で私立志願が急増
中学受験に比べ、受ける人数も圧倒的に多い高校受験。こちらも時代に合わせて変化しています。難関公立校受験向け進学塾「河合塾Wings」で教室長を務める広井輝彦さんに最新の傾向を聞きました。
公立高校の入試は、学習成績や活動状況などを記録した調査書(内申書)と当日の筆記試験の点数で合否を決めます。筆記試験は思考力や判断力、表現力を重視する問題が出題されるようになり、広井さんは「一昔前のように、教科書に書いてあることを覚えれば点が取れる試験ではない。知識の応用力などが、どの教科でも問われている」と指摘します。愛知県の社会科を例に挙げると、統計やグラフなどの資料を多用し、複合的に読み解く力を求めています。
さらに「進学校ほど当日の試験結果を重視する傾向が強い」と広井さん。岐阜県の進学校は内申点3割、当日点7割という評価パターンを採用。愛知県の進学校もほぼ同じ配分です。「『差がつくのは内申書』と考える保護者は少なくないが、実際は上位校でも当日勝負になっている」と試験対策の重要性を語ります。
私立推薦利用者が増加、一部でボーダーライン上昇も
また、授業料無償化を受けて私立の志願者が急増。特に推薦入試の利用者が目立ってきました。推薦の場合、高校側が合格基準となる内申点を中学側に提示している場合が多く、「内申点が基準に達して中学から推薦がもらえれば基本的に合格という学校がほとんど。『ある程度の内申点があれば私立に』という流れは強まっている」とします。2025年度入試は推薦合格者が多かったためか、一部の私立では一般入試の枠が削られ、ボーダーラインが上がった学校もあるといいます。
広井さんは「公立、私立とも、特色を打ち出さないと生徒に選ばれない時代になっている。獲得競争は今後激しくなっていくだろう」と語りました。
大学受験:拡大する総合型・学校推薦型の「年内入試」
大学入試は2020年ごろを境に大きく変化しました。国公立大の受験に欠かせない1月の筆記試験は2021年から「大学入学共通テスト」に生まれ変わり、31年ぶりの変更となりました。内容も知識の応用や思考力などを問う傾向が強くなり、問題文が長文化したり表などの記載が増えたりしました。
最大の変化は、入学方法の多様化です。一般入試による入学者が減る一方、小論文や面接などによる「総合型」、学校の推薦を得て臨む「学校推薦型」の利用が増えています。両方を合わせて「年内入試」と呼ばれます。文部科学省の調査では、2022年度に年内入試の割合が一般入試を超え、2025年度には年内入試による入学者が53.7%に上りました。
入試動向を分析するベネッセコーポレーションの日山敦司教育情報センター長は「学校で探究学習にかける時間が増えたことが、年内入試の出願に追い風となっている」と分析。学習の締めくくりにプレゼンテーションを実施したり、論文を執筆したりする事例は多く、「生徒にとって入試でアピールできる材料が豊富にある。年内で決めてほしいと願う保護者も多い」と語ります。
一方、一般入試も多様化しています。特に私立大では、共通テストの得点で合否を判定する「共通テスト利用方式」の採用が拡大。同じ3教科の得点を利用する場合でも、文系の学部では英語や国語の配点を大きくするなどして、受験生の選択肢を広げています。
「大学受験は情報戦」、情報収集と自己分析が合格の鍵
18歳人口が多かった頃には浪人する受験生も少なくありませんでしたが、「今は、最難関大や医学部進学を除き、現役合格の志向が圧倒的に高い」と日山さん。それを踏まえた上で「大学受験は『情報戦』の様相を呈している。志望する大学にはどんな入試方式があり、自分の強みが生かせるものは何なのか。情報収集と自己分析が、合格の鍵を握る」と助言します。



