「父ちゃん、長い間かかってしもてすまんな」 遺族の墓前での言葉
1984年に滋賀県日野町で酒店経営の女性が殺害され、店の金庫が奪われた「日野町事件」で、強盗殺人罪で無期懲役判決が確定した阪原弘(ひろむ)さん(故人)について、最高裁は2月の決定で再審公判の開始を認めた。この決定を受け、遺族は2026年3月18日、阪原さんの15年目の命日に墓参りを行い、再審開始の報告と無罪判決獲得への決意を伝えた。
戦後2例目となる死後再審の幕開け
今後、大津地裁で開かれる再審公判は、殺人事件では戦後2例目とみられる「死後再審」となる。阪原さんは2011年に受刑中に75歳で病死しており、遺族が2012年に再審を請求していた経緯がある。
18日の墓参りには、妻のつや子さん(88)をはじめとする家族4人と弁護団が参加。日野町内にある墓前で、長男の弘次さん(64)は手を合わせながら、「父ちゃん、長い間かかってしもてすまんな。あとは無罪判決を受け取るだけや。もうちょっと待っててな。生きてるうちに救いたかったけど、ごめんやで」と語りかけた。この言葉には、長年にわたる裁判の道のりと、無罪判決への強い願いが込められていた。
事件の経緯と再審決定の背景
確定判決によると、被害女性は1984年に行方不明となり、翌1985年に遺体と金庫が発見された。阪原さんは1988年、滋賀県警の取り調べで「自白」し、逮捕された。公判では一貫して無罪を主張したものの、2000年に最高裁で無期懲役が確定した。
再審開始が認められた背景には、阪原さんが「犯人」とされた根拠の柱であった「遺体や金庫の捨てられた場所を正確に案内した」という点について、大津地裁が警察官による誘導の可能性を指摘したことが大きい。再審請求審でこの指摘がなされ、大阪高裁も同様の結論を示したことで、最高裁が再審開始を決定した。
三者協議の開始と今後の審理
再審公判に向けた準備として、裁判所、検察、弁護団による三者協議が2026年3月25日に大津地裁で開かれる予定だ。この協議では、審理の日程や争点について話し合われる見込みである。第1回の協議には、再審請求人の弘次さんと長女の美和子さんも出席する。
弁護団長の伊賀興一弁護士は、「阪原さんを有罪とする根拠がないのは明らか。検察は有罪立証を放棄し、弁護団と検察、裁判所が一体となり、一日も早く阪原さんの名誉回復を実現させるべきだ」と述べている。一方、再審公判で検察側が改めて有罪立証を行うかどうかが注目される。
捜査関係者と被害者遺族の反応
事件にかかわった当時の捜査員らは、取材に対して複雑な心境を語っている。元捜査員の一人は「無実というわけじゃない」と述べる一方、別の関係者は「先入観で走りすぎた」と反省の言葉を口にした。捜査員の間では当初から疑問の声もあったという。
滋賀県警は死後再審の確定について、「コメントする立場にない」としている。被害者の遺族は無念を口にし、事件の全容解明を求めている。
この日野町事件の再審は、刑事司法の在り方を問い直す重要なケースとして、今後も注目を集め続けることだろう。遺族の「父ちゃん、待っててな」という言葉が、無罪判決という形で実を結ぶ日が来ることを願わずにはいられない。



