障害の有無で「分けない」保育園、53年の実践と未来への展望
障害の有無で「分けない」保育園、53年の実践と未来

障害の有無にかかわらず、すべての子どもが同じ環境で育ち合う「インクルーシブ保育」が国によって推進されている。その先駆けとも言える取り組みを、東京都東久留米市の「下里しおん保育園」が半世紀以上前から実践してきた。この保育園は、障害のある子どもを受け入れるだけでなく、障害のある大人が通う福祉作業所も同じ建物内で運営している。「分けない保育」を始めて53年。その歴史と現状、そして未来への展望を探る。

「障害者」というまなざしがない日常

4月中旬、下里しおん保育園では、子どもたちが障害のある大人が作るおやつについて会話を弾ませていた。「栄司にいちゃんが、おやつのポンせんべいを作ってくれているよ」「お米のポンせんべい、大好き!」。そこに「障害者」というまなざしは一切ない。園庭では子どもたちが遊び、2階では障害福祉サービスの就労継続支援B型「しおん学園」に通う利用者が穏やかな表情で作業に取り組んでいる。現在、しおん学園では園児へのプレゼント用の木製パズル作りに大忙しで、やすりをかける人、焼きペンで線を描く人など、それぞれのスキルに合わせた作業を協力して進めている。

「共に育ち合う視点」を育んで半世紀

施設長の遠藤勲さん(49)は、「法人の創設者は、子どもでも大人でも『分けない保育』を打ち立て、共に育ち合う視点を育んできた」と語る。26年前に保育園に入職した遠藤さんは、「最初は障害のある子どもも大人も当たり前に過ごしている環境に驚いたが、今では私にとっての当たり前になった。共にいる環境があったから、当たり前に関わることを自然に身につけられた」と振り返る。保育園は1973年に認可を取得すると同時に、当時はまだ珍しかった一般の保育園で障害のある子どもたちを預かる「統合保育」を開始。その後、卒園後の対策として学童保育や福祉作業所も開設し、園と福祉作業所が相互に関わり合う環境をつくり上げてきた。

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医療的ケア児の保育ニーズも高まる

近年では、障害に加えてたんの吸引などが日常的に必要な「医療的ケア児」の保育ニーズも高まっている。こども家庭庁は、特性のある子どもの受け入れを充実させるため、作業療法士や言語聴覚士などの専門職を配置する園に人件費などを補助する制度を本年度に新設。保育士不足の現状も考慮し、専門職を「みなし保育士」とする特例も設け、常勤保育士とペアで保育することを想定している。同庁担当者は「専門職の職能を生かし、より充実した支援を目指したい」と説明する。

「保育園は子どもが初めて出合う社会」

模索が続くインクルーシブ保育の今後について、保育園の横山美香園長(56)は「設立以来、保育士養成課程で学んだ人だけでなく、芸術や農業などを専攻した大学出身者を保育助手として採用し、入職後に保育士資格の取得を推奨するなど、担い手の多様性を意識してきた。さまざまな感性の大人が子どもたちの周りにいることを大切にしたい」と話す。そして、「保育園は子どもたちにとって初めて出合う『社会』。多様な分野からの視点で、子どもも障害者も大人も、皆で共に育つことが何より未来につながる。『みなし保育士』もその一助になるのではないか」と展望を語る。

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「統合保育」と「インクルーシブ保育」は、障害のない子とある子を一緒に保育する点では同じだが、統合保育は障害のある子どもがない子どもの集団に適応していく考え方であるのに対し、インクルーシブ保育は障害の有無にかかわらず対等に保育することを意味する。保育所に通う障害のある子どもは2024年に11万2040人で、2015年の6万余人から倍増。医療的ケア児の受け入れも2024年は1535人で、2015年比で5倍近く増えており、共働き家庭の増加などが背景にあるとみられる。