糖尿病治療薬でダイエット、専門家が警告するリスクと理想的な減量法
糖尿病治療薬を使ったダイエットに関する情報が、SNSで広がっています。「体重が落ちた」「副作用に苦しんだ」など様々な体験談が投稿されています。医療機関が「やせ薬」として処方するケースもあり、専門家は「生理不順などの健康被害のリスクがある」と注意を呼びかけています。
女性の体験談:10キロ減量も副作用に苦しむ
大阪府に住む48歳の女性は、自宅で菓子教室を開いています。2011年に2人目の子どもを出産後、体重が戻らず悩んでいました。元国際線客室乗務員だった彼女は、1人目の出産後は職場復帰で自然と体重が戻ったものの、2人目の出産後に菓子講師に転身。客室乗務員時代より16キロ増加しました。菓子作りで砂糖やバターを使うことが原因と考えつつも、膝や股関節の痛みで運動ができませんでした。そんな中、菓子教室の参加者から「糖尿病治療薬の注射で減量できた」と聞き、興味を持ちました。
女性は糖尿病ではありませんでした。医師である夫に相談したところ、「保険外になるので処方できない」と断られました。しかし、全額自己負担の自由診療で処方してくれるクリニックを見つけ、昨年5月に受診。2型糖尿病用の注射薬「マンジャロ」の投与を開始しました。
投与直後から唾液がまずくなり、喉に不快感が生じました。気持ち悪さが強まり、空腹感はあるものの夕食を通常通り食べられなくなりました。翌日には強い疲労感と眠気、夜にはめまいやだるさが出現。3日目の朝、サンドイッチを2切れ食べただけで胃が苦しくなりました。それでも週1回の投与を続けると、副作用は徐々に慣れていきました。
投与開始から約7か月後の11月末、約10キロの減量に成功し、投与を中止。薬代は17万円以上かかりましたが、「体調がしんどい時もあったが、『食べたい』という欲求は抑えられた」と振り返ります。
マンジャロとは?ダイエット目的の使用に警鐘
マンジャロは米製薬大手イーライリリーが開発した2型糖尿病治療薬で、血糖値を下げるインスリンの分泌を促します。国内では2023年に発売され、主に食事療法や運動療法だけでは血糖値が十分に下がらない2型糖尿病患者が対象です。美容目的での使用は本来できませんが、ダイエット希望者に処方するクリニックが少なくないとみられます。
有効成分には食欲を抑え体重を減少させる効果があり、2024年には同じ成分で肥満症治療薬も発売されました。対象は高血圧や脂質異常症、2型糖尿病があり、体格指数(BMI)27以上の患者です。
専門家が指摘する3つのリスク
糖尿病専門医で枚方公済病院(大阪府枚方市)内分泌代謝内科部長の田中永昭さんは、糖尿病や肥満症でない人がこの薬を使うリスクとして、次の3点を挙げます。
- 消化器症状:激しい嘔吐、下痢、便秘など
- 健康被害:過剰な体重減少による筋肉量減少、免疫力低下、生理不順
- 低栄養:食べられなくなり栄養不足に陥る
田中さんは「薬の効果や副作用の出方は個人差が大きい。糖尿病でも肥満症でもない人を対象にした臨床試験は実施されておらず、ダイエット目的での安全性は確認されていない。減量を目指す人は安易に薬を使わず、専門医に相談してほしい」と話します。
理想的なダイエット法:運動と食事のバランス
日本肥満学会は、脂肪が過剰に蓄積しBMIが25以上の場合を「肥満」と定義しています。肥満症専門医で「いんべクリニック」(大阪市)院長の忌部尚さんは「肥満でも血糖値や血圧が正常なら、必ずしも減量は必要ない」と説明します。その上で、「食事量を減らせば減量できるが、一定以上はやせなくなる。基礎代謝と筋肉が落ち消費カロリーが減るため、運動が欠かせない」と指摘します。
推奨される運動はウォーキングのほか、スクワット、腕立て伏せ、腹筋などの筋トレです。「毎日続けることが重要。筋トレは1セット10回が基本だが、難しければ自分で決めた回数でよい」と助言します。
肥満はホルモン異常などの病気が原因の場合もあります。忌部さんは「だるさやむくみ、抑うつなどの症状があれば、肥満に詳しい専門医に相談してほしい」と話しています。



