新型コロナウイルスのパンデミックにおいて、多くの命を救ったmRNAワクチン。しかし、接種後に若年男性を中心に心筋炎がまれに発生することが報告されていた。心筋炎は心臓の筋肉に炎症が起き、ポンプ機能が低下する重篤な疾患である。このたび、筑波大学医学医療系の川口敦史教授(分子ウイルス学)と大学院生の森豪さんらの研究チームが、その発生メカニズムを解明し、今年4月に論文を発表した。
ミトコンドリアの機能低下が原因
研究チームは、ワクチン接種後に心筋炎を発症した男女6人(平均年齢22.6歳)の心筋細胞を分析。その結果、ミトコンドリアの形態異常と、ミトコンドリア関連遺伝子の機能低下が確認された。さらに、ミトコンドリア機能に軽度の異常を持つモデルマウスにmRNAワクチンを接種すると、ヒトと同様の心筋炎症状が再現された。川口教授は「ミトコンドリア機能の低下が心筋炎の直接的な原因である」と結論づけた。
ワクチン成分LNPの影響
研究では、mRNAを包む人工脂質(LNP)にも注目。LNPのみをモデルマウスに接種したところ、心筋炎様症状が誘発された。詳細な分析により、LNPがミトコンドリア由来の活性酸素(ROS)の産生を増加させ、炎症性細胞死を引き起こすことが判明。ROSの働きを阻害する薬剤投与で心機能低下を防げた。
性ホルモンの影響と予防法
女性ホルモンの働きを活性化する薬剤投与で心機能低下が予防され、逆に男性ホルモン活性化薬で悪化が確認された。これは、若年男性で心筋炎リスクが高い理由を説明する。研究チームは、ROS阻害薬やLNP改良による副反応軽減の可能性を示唆している。



