南極観測船「しらせ」の次期運航を検討する委員会は5日、現在海上自衛隊が担う運航業務を、海洋研究開発機構へ移管する案をまとめた。この案は今月下旬に開催される南極地域観測統合推進本部で正式に決定される見通しで、1965年から続く海上自衛隊による南極観測船運航体制は大きく転換することになる。
新船建造へ向けた議論の経緯
現行の「しらせ」は2034年春に退役が予定されており、後継船の建造を急ぐ必要がある。このため、次期輸送体制を検討する委員会は4月から4回にわたって議論を重ねてきた。
海上自衛隊の人員不足が背景
委員会で防衛省は、2024年度の自衛官採用が目標1万5千人に対し、実際は1万人に届かなかったと説明。海上自衛隊でも充足率が約9割にとどまっており、運航体制の見直しが必要と指摘した。ただし、新船には約30人の隊員を派遣する意向も示している。昭和基地周辺は夏場でも厚い海氷が広がり、砕氷航行や氷上での物資輸送には特殊な技術が求められるため、船舶会社単独での運航は難しく、海上自衛隊の支援が必要と判断した。
新たな運用主体と技術継承
新船の運用主体は、北極域研究船「みらいII」など多様な研究船を保有する海洋研究開発機構となる。委員会では、現在の「しらせ」に乗船予定者を同乗させ、氷海航行の経験を積ませるなど、技術と知見の継承が重要との意見が出された。
ヘリコプター運用の課題
昭和基地周辺での物資輸送や観測隊員の移動には、ヘリコプターが不可欠だ。現在「しらせ」には3機搭載されているが、1機は国内での事故で大破。残る2機も整備費不足などの理由で、2033年春には運用が終了する見込みで、「しらせ」より1年早い。ヘリコプターの運用主体は、観測隊を派遣する国立極地研究所に移る。機種は大型機から中型機に変更される予定で、購入かチャーターかは未定だ。
観測隊編成の変更
輸送体制の変更に伴い、観測隊の編成も見直される。海上自衛隊員やヘリコプターの操縦士、整備士らは観測隊に組み込まれることになる。
新船は2029年度から建造を開始し、2034年秋の南極初航海を目指す。国立極地研究所の伊村智・南極観測センター長は「大きな転換点だが、南極観測の歴史を途絶えさせないことが最も重要だ」と述べている。
南極観測船の歴史
南極観測船は1956年11月に初代「宗谷」(3853トン)が海上保安庁の運航で出発。1965年就航の2代目「ふじ」(5250トン)から海上自衛隊が運航を担ってきた。3代目は1983年就航の旧「しらせ」(1万1600トン)、そして2009年就航の4代目が現在の「しらせ」(全長138メートル、基準排水量1万2650トン)だ。現「しらせ」は厚さ約1.5メートルの海氷を砕いて進む世界屈指の砕氷船で、さらに厚い氷にはバックして勢いをつけて体当たりする「ラミング航行」を行う。2034年春に南極から帰国し退役する予定。



