「自分のため」から「人のため」へ、ローザンヌ1位の二山治雄が新たな境地
2014年に若手ダンサーの登竜門として知られるローザンヌ国際バレエコンクールで1位を獲得した二山治雄が、今再びバレエファンの注目を集めている。名門パリ・オペラ座バレエ団の契約団員などを経て、2025年4月に東京バレエ団にソリストとして入団。すでに「ドン・キホーテ」と「くるみ割り人形」で主役を務め、2026年8月の公演「海賊」では、豪快な舞いで観客を魅了するアリ役に選ばれた。コンクールでの快挙から10年余り、「やっと自分の居場所を見つけた」と語る二山に、新天地での思いを聞いた。
皆が一つになっていく温かいバレエ団
入団1年目で「ドン・キホーテ」の青年バジルと「くるみ割り人形」の王子という2演目の主役を踊った二山。バレエ団の期待の大きさを感じさせるが、本人は「主役デビューの時は、皆を引っ張っていかなければいけないプレッシャーや、自分が真ん中に立っていいのかと考えてしまった」と振り返る。しかし、準備段階からプリンシパルの柄本弾さんをはじめ多くの先輩に支えられ、舞台本番でも助けられたという。「励まし合ったり、支え合ったりして、舞台に向けて皆が一つになっていくさまが見える。すごく温かいバレエ団です」と語る。主要な役だけでなく「ザ・カブキ」など東京バレエ団ならではの作品も踊り、濃い一年を過ごした。
パリ・オペラ座では契約団員で、更衣室に自分のロッカーもなかった。帰国後はフリーランスとして活動していたため、今やっと居場所を見つけ、東京バレエ団の団員を「職場の仲間」と言えるのがうれしいという。芸術監督の佐野志織先生からは「なじみすぎているくらいなじんでいる」と言われたそうだ。
「海賊」アリ役への抜てき、熱く踊りたい
8月の公演「海賊」では、人気キャラクターであるアリ役に抜てきされた。全幕を通して踊るのは初めてで、「率直にすごくうれしい」と喜びを語る。アリは海賊の首領コンラッドに仕える“ザ・男”といった役柄で、普段はコンラッドに従っているが、踊りになると本性をさらけ出す。二山は「僕は中性的なイメージが強いので、お客さまに違う一面を見せられたら。熱く踊りたいです」と意気込む。
苦しいことも多かったパリ・オペラ座の日々
ローザンヌ優勝後、米国に留学し、ワシントン・バレエを経てパリ・オペラ座に挑んだ二山。当時は「ローザンヌで賞をもらえるとは思っていなかった。普通の高校生だった」と振り返る。プロになる心構えもなく、周りに勧められるままコンクールを受け、留学したという。オペラ座への挑戦も「入団オーディションがあるから受けてみたら」と言われたのがきっかけだった。
契約団員時代は1年契約で、正団員を目指して毎年入団試験を受けた。好きなダンサーであるマチアス・エイマンと一緒にレッスンやリハーサルができたことに感動したが、苦しいことも多かった。「とにかくオペラ座になじもう、周りと合わせなきゃと必死でした。今思えば、もっと自分らしさや個性を出せば良かった。縮こまらず堂々としていれば良かったなと思います」と反省を込めて語る。
それでも得たものは多い。オペラ座の先生から直接指導を受け、フランスのスタイルを身に付け、見るもの聞くもの全てが勉強になった。舞台で踊る機会が多くはなかったが、「その場にいるだけで価値があると思える時間でした」と振り返る。
人生初のアルバイトで変わったバレエへの姿勢
帰国後、コロナ禍でオペラ座の公演がなくなり、契約も解除された。実家に戻り、「一回バレエから離れたいな」と思い、人生で初めてアルバイトをした。1年半ほど、スーパーで午前3時から9時までの品出しやレジ係、介護施設で事務仕事を経験。人の役に立てている実感を得た。介護施設では、クリスマス会で入所者の前で踊り、涙したり笑顔になったりする人々を見て、「自分の踊りで人を喜ばせることができる」と感じ、バレエに対する考えが変わったという。
「自分を見つめ直す時間ができて、それまで流れのように取り組んでいたバレエを、初めて自分の意志で仕事だと思えるようになった。バレエへの姿勢も変わりました。仕事は責任を伴う。今までは自分のために踊っていたけれど、見てくれる人のため、お客さまのために踊ろうと思うようになりました」と語る。
東京バレエ団入団の決意
フリーで踊ることはいつでもできるが、どこかのバレエ団に入団したいと考えていた。そんな時、東京バレエ団のプリンシパル秋山瑛さんと共演する機会があり、団長の斎藤友佳理さんから話を聞き、公演を見に行って「ここに身を預けたい」と思った。演目が幅広く、世界的振付家が団のために振り付けた代表作があるのも魅力だった。
入団オーディションでは、自分よりずっと若い子たちと一緒に受けた。「もう要らないプライドは捨てようと思っていて、入団したらどんな役でもやろうと。その気持ちは今も変わりません」と語る。東京バレエ団で主役を踊り、周りのダンサーの大切さを強く感じたため、ソリストの役に限らず群舞でも何でも踊りたいという。
コンプレックスがあるからこそ
踊りのこだわりについて、二山は「個性は出していきたい。もちろんアンサンブルなどでははみ出してはいけないが、自分らしさは絶対につぶしてはいけないと思っています」と語る。その個性が何かと問われると自分でも分からないが、踊り方や表現の仕方で、周りにすごく合わせる必要もないかもしれないと考える。身長167センチとダンサーとしては高くなく、鏡を見て「小さいな」と思うこともあるが、「コンプレックスがあるからこそ、他の人よりもできなきゃいけないと常に思っています」と前向きだ。
プロのバレエダンサーを目指す後輩たちには、「学校生活や家族と過ごす時間も、全ての経験がバレエの表現として出てくると思うので、バレエだけじゃなく、とにかく今の時間を思いっきり楽しんでいろいろな経験をしてほしい」とアドバイス。バレエは小さい目標を積み重ねることが大事で、無駄だと思っても頑張ったことは必ず人生に反映されるという。「その時にしかできないことをひたすら頑張ってほしい」とエールを送る。
東京バレエ団の「海賊」は2026年8月26日から30日まで東京・新国立劇場で上演。二山のアリ役出演は27日と29日である。



