多彩かつ視界外から現れる拳 井上尚弥に挑む中谷潤人、対戦選手が語る強さの秘密
多彩かつ視界外から現れる拳 中谷潤人の強さの秘密

ボクシングの元世界バンタム級2団体統一王者の中谷潤人(M・T、三重県東員町出身)が5月2日、世界スーパーバンタム級主要4団体統一王者の井上尚弥(大橋)に挑む。中学卒業後に渡米してプロの道を目指したたたき上げで、飾らない言動も印象的なボクサー。多彩なパンチに勝利への執念を備え、世紀の一戦に臨むプロ32戦全勝(24KO)の28歳の強さとは。過去に対戦した選手の証言をもとに、2回に分けて紹介する。(永井響太)

多彩かつ視界外から現れる拳

2016年の全日本フライ級新人王決定戦で、矢吹正道(右)を攻める中谷潤人=後楽園ホールで

東京・後楽園ホールで闘いを終えて乗ったタクシーは、自宅のある横浜市鶴見区あたりに差しかかる。2019年2月、日本フライ級王座決定戦で中谷と対戦した望月直樹は、車を降りた後、トイレに行きたくなった。そこで、はっとした。血尿だった。「ミキサー車から流れてくるセメントのようだった。試合中にダメージはなかったけど、左のボディーアッパーだったんじゃないか」

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中谷の特徴は、軽量級ながら身長172センチと長身の体格に起因するリーチの長さと懐の深さだ。遠距離から手が伸びる中谷を倒すには、近づかなければならない。懐に入っても「もう一つ、インファイトの壁がある。(アウトボクシングとインファイトの)二段方式の攻撃面が彼の魅力」と攻略の難しさを語る。

望月にはサウスポーのボクサーは近づきすぎずに強いパンチで倒しに来るという固定観念があり、インファイトで体力を削っていけば優位に闘えると思っていた。しかし中谷は、接近戦でも被弾しない頭や足の位置、動きを熟知していた。その上、長い腕を折り畳みながら打ってくるアッパーが厄介。「あれは見えない。たぶん、300発ぐらいはもらったかな」と自嘲した。

リーチの長さを武器に、視界の外から拳が飛んでくる。22年4月、世界ボクシング機構(WBO)フライ級タイトルマッチ。山内涼太(角海老宝石)は、視野を広くして警戒しないといけない王者の中谷のパンチに手を焼いた。「手が長いので、より振り幅がある。外が広い分、中のパンチがめっちゃ鋭く感じる」。両脇からの攻撃を気にし出すと、中央に来るワンツーの速さに驚かされ、内側を意識すれば外側からパンチが飛ぶ。

対戦した多くの選手は、一発の破壊力でやられたというより、高い技術でダメージを蓄積させられた。16年12月に全日本フライ級新人王決定戦で相対し、今は国際ボクシング連盟(IBF)フライ級王者の矢吹正道(緑、三重県鈴鹿市出身)は、技術の多彩さに言及した。ジャブから得意の左につなげる攻撃パターンに加え、「打ち方や角度と(同じ手で2発、3発と続ける)ダブル、トリプルの選択肢が違う」と他の日本人選手と異なる特性が武器とみる。

元IBFバンタム級王者の西田凌佑(六島)は、日本選手では直近の昨年6月、同級の世界王座統一戦で拳を交えた。ストレートやボディー、アッパーと、どのパンチにも勢いを感じた。「遠心力のまま押し込む感じ。ガードを固めていたけど、ちょっとバランスを崩される」と体の軸がぶれる感覚を覚えた。

多彩かつ視界の外から現れる拳は正確だ。遠距離に加え、接近戦も苦にしない。総力を結集させ、同じくプロ32戦全勝の井上を超越できるか。西田は「いろんなことをうまいタイミングで使い分ける。パターン化しないこと」。“モンスター”と称される絶対王者への勝機を展望した。

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