中東情勢の波紋が酒造業界に深刻な影響
米国とイスラエルによるイラン攻撃に伴う中東情勢の緊迫化が、遠く離れた福島県の酒造業界に直接的な打撃を与えている。日本酒やウイスキーの製造に不可欠なボイラーの燃料である重油の入手が困難になり、価格も急騰。石油由来の資材供給の見通しも不透明な状況が続き、地元酒蔵の経営を脅かす深刻な事態が進行中だ。
郡山市・笹の川酒造の苦境
郡山市の笹の川酒造では、日本酒の火入れや仕込み作業、瓶の洗浄などに使用するボイラーの重油調達が大きな課題となっている。山口哲蔵社長(72)は、現在は何とか確保できているものの、業者から入手できる重油の一回当たりの量が従来の半分以下に激減していると明かす。
「今後も安定して届くかは全く予測がつかない状況です」と山口社長は語り、価格も半年前と比較して約40%も上昇していることに頭を悩ませている。
さらに同社のウイスキー製造にも影を落とす可能性が浮上。塗料などに石油製品を使用する特注のコルク栓について、外注先が製造できない状態に陥っているという。8月までの出荷分は在庫で対応できる見込みだが、それ以降の供給見通しは立っておらず、「コルク栓などが入手不能になれば、商品の製造そのものが不可能になる恐れもあります」と危機感を募らせている。
二本松市・奥の松酒造の懸念
二本松市の奥の松酒造では、今年3月に複数の仕入れ先で重油が入手不能となり、一時は一社からの提供しか受けられない状態に追い込まれた。4月からは数社からの購入が再開されたものの、担当者は「先行きが見通せず、正直なところ不安が拭えません」と本音を漏らす。
同社には1万2千リットルの重油タンクがあり、ボイラーで沸かした湯を用いた瓶詰め工程での殺菌作業や、瓶・設備の洗浄に活用している。これらの工程は製品出荷に欠かせないため、「重油の調達が困難になれば、製品の出荷そのものがストップする可能性がある」と危惧する声が上がる。
さらに、商品の梱包に使用する原油由来の樹脂フィルム製品の価格も高騰しており、「近い将来、品薄状態に陥るかもしれない」と新たな憂慮材料が加わっている。
会津若松市・鶴乃江酒造の広がる不安
会津若松市の鶴乃江酒造の向井洋年社長(53)は、重油だけにとどまらない資材全般の供給不安を指摘する。現在は不足していない一升瓶のキャップについて、メーカー側から10月以降の供給見通しが明確でないとの説明を受けたという。
向井社長は「酒のタンクを密封するビニールカバーなども供給が危うくなるだろう」と予測し、「原料の米価が上昇した直後に、今度は中東情勢の問題が発生。今後の動向が全く読めず、この冬の営業がどうなるか不安でなりません」と胸中を明かした。
県酒造組合の対応と業界全体の危機感
福島県酒造組合には、すでに一部の蔵元から不安の声が寄せられている。組合は状況を注視しているが、担当者は「酒米や瓶などの価格も上昇する中、中東情勢の問題が長期化すれば、酒蔵はさらに苦境に立たされることになります。一日も早い解決を願うばかりです」と切実な願いを語った。
中東情勢という国際問題が、地場産業である酒造業界の存続に関わる深刻な経営課題に直結している現実が浮き彫りとなった。燃料や資材の安定供給が確保されない限り、伝統的な酒造りの継続さえ危ぶまれる状況が、福島県内の各酒蔵に重くのしかかっている。



