エジプト最古最大の土製カバ像発掘 埼玉・早大の学芸員らが祭祀の痕跡を解明
エジプト最古最大の土製カバ像発掘 祭祀の痕跡を解明

エジプト最古最大の土製カバ像を発掘 埼玉・早大の学芸員らが祭祀の痕跡を解明

早稲田大学本庄キャンパス(埼玉県本庄市)にある考古資料館の学芸員、馬場匡浩さん(51)を中心とする研究チームが、エジプト南部のヒエラコンポリス遺跡(紀元前約3600年)において、同国で最古かつ最大となる土製のカバ像を発掘しました。この発見は、古代エジプト文明の起源である先王朝時代の祭祀や社会構造に関する重要な手がかりを提供するものとして注目を集めています。

カバ像の詳細と発掘の経緯

馬場さんは2003年から同遺跡で発掘調査を継続しており、2007年には世界最古とされるビール工房跡を現場責任者として発見しています。その後、2017年から2020年にかけて、英国オックスフォード大学の研究者らと協力し、ビール工房跡から数百メートル離れた墓地近くで多数の土製破片を発掘しました。これらの破片を整理・分析した結果、数十片を組み合わせることで全長約1.5メートルのカバ像であることが判明し、ほぼ完全な形に復元することができました。

エジプトにはかつてナイル川沿いにカバが生息しており、当時は最大で最強の動物として畏怖の対象とされていました。古代エジプトではカバ像が多数出土していますが、今回発見された像は年代が最も古く、規模も最大級である点が特徴です。

祭祀の痕跡と権力者の関与

カバ像が出土した場所は、墓地の玄関を囲むように土を1メートル数十センチ掘り下げ、その土を玄関前に最大幅約10メートルに盛り固めた盛り土でした。像は盛り土の中央付近の最上部から発見され、周囲には直径約20センチの柱跡が4本程度確認されています。このことから、カバ像は神聖な祭祀場所の象徴として、厨子のような構造物の中に安置されていたと推測されています。

さらに、盛り土からはコップ状の土器片が多数出土し、米国スタンフォード大学との共同研究により、その底部にビールの成分が検出されました。馬場さんは、「権力者が近くのビール工房で造ったビールを祭祀場所に持ち込み、庶民に与えることで権威を示した可能性がある」と指摘しています。当時のビールは現代の大麦ではなく、小麦を発酵させたヨーグルト状のものであったとされています。

歴史的意義と今後の展望

ヒエラコンポリス遺跡は、エジプト文明の起源である先王朝時代に位置付けられ、ギザのクフ王のピラミッド(紀元前約2500年)より千年以上も古いものです。ビール工房跡は先王朝時代に数カ所で出土していますが、ビールを伴う祭祀場所が発見されたのは同遺跡が初めてであり、古代の社会儀礼や支配構造を理解する上で貴重な発見と言えます。

馬場さんは、「ビールを用いた祭祀による支配が各地に拡大し、後のファラオ(王)を生み出す原動力につながったと考えられる。ピラミッドの時代にはビールは神殿などの祭祀に使用され、民衆にも広まっていった」と説明しています。現在も同遺跡では毎年発掘調査が続けられており、今後の研究によってさらなる知見が得られることが期待されます。

この発見は、考古学や古代史の分野において新たな議論を呼び起こすとともに、埼玉県本庄市を拠点とする研究チームの国際的な貢献としても評価されています。