吟味方の過去の裁きに疑念 惣十郎と崎岡が五年前の盗用事件を再調査へ
五年前の盗用事件再調査へ 惣十郎と崎岡が動く

五年前の盗用事件に新たな動き 奉行所内で再調査が開始

奉行所の廻方詰所で油を売っていた崎岡を捕まえ、惣十郎が声をかけた。「おい、伝馬町に行くぜ」。すると崎岡は、虫歯がひどく痛み出したような苦い表情を浮かべ、ため息混じりに反論する。

「おいおい、婆さんには十分に話を聞いたじゃねぇか。あの態度だぜ。もういいだろうよ。盗用なんてしてねぇだろうし、そもそもが筆墨も与えられねぇ獄にいるんだ。向後、図面を引くこともできなけりゃ、武器を造ることもできねぇからよ」。

過去の裁きを覆す調査に崎岡が難色

馬鹿のひとつ覚えのような返答に、惣十郎は「いや、これから図面を引いてもらうんだよ、お粂に」と切り返す。すると崎岡はこれ見よがしに深い嘆息を漏らした。

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「馬鹿も休み休み言え。なんだってそんな余計なことをすンだよ。そもそもだ、俺たちが志村様から調べるよう命ぜられたのは、盗用の件だぜ。五年前のお裁きをひっくり返すことじゃねぇだろ。吟味方の仕事に非を唱えるようなこたぁ、俺はしたくねぇからな」。

崎岡の頑なな態度に、惣十郎は思わず口から出任せを言う。「いや、むしろこいつぁ、出世の契機になるかもしれねぇぞ」。その言葉に、崎岡はぴくりと眉を動かした。

志村様の信頼に応える好機と説得

「いいか、考えてもみろ。こたびの件を吟味方が内々に片付けず、廻方に調べ直すよう命じたのはなぜだと思う。つまり志村様は吟味方の身内より、俺たちを信じてくださったんだよ。これに応えれば、信を置かれる。手柄にもなるたぁ思わねぇか」。

こんなあからさまな煽り文句を唱えなければならないことに、惣十郎は内心うんざりしていた。そもそもこの仕事は惣十郎と崎岡の両人に頼まれたものだというのに、いっこうに働かぬ崎岡に腹が立っているのだ。

それでも、向後この一件を吟味方や例繰り方を含む奉行所内で片付けねばならぬことを考えると、根回しとまでいかずとも、内部事情に詳しい崎岡と協力して動いたほうが、なにかと都合がよかろうと判断したのである。

駒井家の関係に触れ態度一転

さらに惣十郎は続ける。「それに、五年前に一件を扱った吟味方与力は駒井様だ。もう致仕した方だ。非を唱えても恨まれることはなかろうよ」。

「駒井……例繰方の駒井様の父親か」。惣十郎が頷くと、崎岡は「へえ。あいつの」と口中で唱えた。そして、急に態度を改めて言う。「まぁそういうことなら、付き合ってやってもいいぜ」。

急に態度を変えた崎岡を怪訝に思うも、ここで混ぜ返してまたごねられても厄介だと、惣十郎は「これからすぐに行くからよ」と、崎岡を急き立てたのであった。

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