又吉直樹、6年ぶり長編小説で描く「物語が転ぶ」世界観 主人公の人生狂いと笑いの本質
又吉直樹6年ぶり長編 物語が転ぶ世界観描く (13.02.2026)

又吉直樹、6年ぶりの長編小説で「物語が転ぶ」世界観を提示

お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんが、6年ぶりとなる長編小説を発表した。今回の作品は原稿用紙900枚に及ぶ大作で、これまでの作品の中で最も長い分量となっている。当初は書き下ろしか前後編を想定していたが、文芸誌での「短期集中連載」としてスタート。結果的に15回連載となり、「どこが短期やねんって」と笑いながら振り返った。

阪神優勝夜の大阪から始まる物語

物語は阪神タイガースがセントラル・リーグ優勝を果たした夜の大阪・道頓堀から始まる。主人公の公認会計士・岡田は、高校時代の仲間である横井と偶然再会する。横井は周囲から手当たり次第に借金をしており、岡田も500万円を貸すことになる。この出来事をきっかけに、岡田の人生は坂道を転がり落ちるように狂い始める。

又吉さんは、人が抱える悲しさとおかしさを疾走感のある文体で描き出した。公認会計士という堅実な職業に就く岡田が、横井の言動に引きずられるように嘘を重ね、心の闇を深めていく様子を緻密に表現している。

「変な人」と「常識的な人」の関係性への疑問

執筆にあたっては、お笑い芸人としてコントの脚本を書いた経験が生きたという。しかし又吉さんは、「変な人」に「常識的な人」が突っ込み、笑いを生むという定番のスタイルに疑問を投げかける。

「物語が転んで、正しく見える人にもおかしなところが出てきて、よく分からないものが生まれる。それが僕の世界の見方です」と語り、従来の笑いの構造を超えた独自の視点を示した。

40代の主人公に込めた思い

主人公の年齢を40代にさしかかる年代に設定したことには明確な理由がある。又吉さんは「引退も遠くて、何歳まで働けるのか不安を感じている。『青春』で逃げ切れない、言い訳ができないしんどさに魅力を感じる」と説明。中年期特有のプレッシャーと向き合う姿勢を作品に反映させた。

読書家から芥川賞作家へ

又吉直樹さんは読書家として知られ、お笑いコンビ「ピース」として活動する傍ら小説を執筆。2015年に発表した「火花」で芥川賞を受賞し、文壇に衝撃を与えた。同作は累計354万部の大ヒット作となり、現在も新たな読者を獲得し続けている。

若手芸人との交流から得る気づき

最近では20代の若手芸人と酒を酌み交わす機会が増えているという。「『又吉さん、45歳にしては面白いですね』とか言われる。若手に褒められることで、自分では見えていないことの気づきにもなる」と語り、面倒見のいい「先輩」としての一面も覗かせた。

今回の作品は文芸春秋から発売され、価格は2200円。又吉直樹の作家としての新たな挑戦が、読者にどのように受け止められるか注目される。