日本文学研究者の小平麻衣子さんが、多忙な大学の時期に悠久を感じたいと選んだ3冊の本が注目を集めています。これらの書籍は、知がどのように保存され、伝達されてきたのか、その歴史的変遷を深く探求する内容となっています。
知の伝達の制度史を辿る
1冊目は、『知はいかにして「再発明」されたか アレクサンドリア図書館からインターネットまで』(イアン・F・マクニーリー、リサ・ウォルヴァートン著、冨永星訳、ちくま学芸文庫、1650円)です。この本は西洋の思想史ではなく、知が政治や宗教と結託したり、やり過ごしたりする過程を、紀元前の図書館から修道院や大学、科学優位の実験室まで辿る制度の歴史を描いています。地域や言語を軽々と超えてゆく知の拡張は、印刷の発展後も続き、書簡が飛び交う「文芸共和国」への憧れを覚えさせますが、排除されるものも大きい点が指摘されています。人文主義を問い直す一冊としても評価されています。
源氏物語の香りを感じる文学
2冊目は、『源氏の薫り』(尾崎左永子著、講談社学術文庫、1540円)です。この本は、源氏物語に登場する香りに焦点を当て、文字だけに宿る薫りを探求しています。薫陸や零陵香などの見慣れぬ香料の字面に惹かれるだけでなく、それぞれの女性キャラクターや心理の襞が薫りとして立ち上がる様子を描いています。光源氏に妻が何人もいた時代背景を反映し、人によっては慣れぬ香りにむせることもあるかもしれませんが、文学的な深みを感じさせる内容です。
江戸期の壮大な物語
3冊目は、『椿説弓張月5』(曲亭馬琴著、葛飾北斎画、菱岡憲司訳、光文社古典新訳文庫、1386円)です。江戸期の作品で、他に比べれば最近のものですが、5冊の現代語訳の完結編として、歴史上の源為朝の事績を再解釈した壮大な物語が展開されます。葛飾北斎の挿絵を美術館で見て物語が気になった方にもうれしい完全収録で、本文を読むと再び瞠目するほどのスペクタクルが待っています。為朝が妖力を持つ巨悪を力と智謀によって倒していく過程は、琉球の建国物語との合体という馬琴の奇想を示し、当時の琉球観も反映しています。
これらの3冊は、知の伝達の歴史から文学の香り、そして時を超える物語まで、多角的な視点を提供しています。小平さんが選んだ本を通じて、読者は人文主義の再考や文化的な探求に触れることができるでしょう。