障害の有無を超えた職場で一人ひとりの特性を活かす
かつて成年後見制度を利用した人々が特定の職業に就くことを阻んでいた「欠格条項」。警備業法や国家公務員法など約180の法律に存在したこの規定は2019年に削除された。しかし、制度改正から数年が経過した現在、障害者が実際に働く現場はどのように変化しているのだろうか。
「ありがとう」の言葉にやりがいを感じる職場
兵庫県明石市のデジタル推進課で、知的障害と身体障害を持つ橋本祐哉さん(30)は市民や各課からのメールをチェックしながら、穏やかな笑顔を浮かべる。「今まで経験したことのない仕事ができ、市民から『ありがとう』と言ってもらえることにやりがいを感じます。パソコンのスキルを磨いて、今以上の仕事をしたい」と語る橋本さんの言葉には、仕事への誇りと前向きな姿勢がにじんでいる。
明石市は2016年4月、成年後見制度を利用して後見人や保佐人をつけた人も市職員として採用できる条例を施行。2019年に地方公務員法の欠格条項から成年被後見人などが削除されたことに伴い条例は廃止されたが、「誰一人取り残さないやさしい共生のまちづくり」を掲げ、障害者らの採用を積極的に進めている。
特別支援学校卒業後の新たな道
橋本さんが明石市の職員として採用されたのは2019年4月。特別支援学校高等部を卒業後、福祉作業所を経て工場でアンテナの組み立て作業に従事していたが、不整脈の発作があり、工場での継続的な勤務が困難となった。事務職への転向を考えたものの、知的障害がある人向けの募集はほとんどなく、進路に悩んでいた時期があった。
そんな中、明石市が障害のある人も含めた多様な人材の採用に取り組んでいることを知り、応募を決意。採用後はデジタル推進課でメール対応やデータ入力などの業務を担当し、着実にスキルを向上させている。
共生社会実現への取り組みと課題
明石市の取り組みは、単に雇用の機会を提供するだけでなく、職場環境の整備や個々の特性に合わせた業務配分にも力を入れている。橋本さんの上司である木下集課長は「一人ひとりに特性があります。障害の有無に関係なく、それぞれの強みを生かし、共に働くことが大切です」と語る。
しかし、課題も存在する。欠格条項が撤廃されたとはいえ、実際の雇用現場ではまだ偏見や理解不足が残っているケースも少なくない。また、成年後見制度を利用している人が就職する際のサポート体制や、職場での合理的配慮の具体的内容については、まだ改善の余地がある。
多様性を活かす職場の未来
障害の有無に関わらず、一人ひとりの特性を尊重し、強みを活かす職場づくりは、単なる社会貢献ではなく、組織の多様性と創造性を高める重要な要素となっている。明石市の事例は、地方自治体が率先して共生社会の実現に取り組むモデルケースとして注目されている。
橋本さんは「デジタル推進課での仕事を通じて、多くのことを学びました。これからもスキルを磨き、市民の役に立ちたい」と語り、自身の成長と社会への貢献を結びつける視点を持ち続けている。障害者雇用の現場では、制度の変更だけでなく、一人ひとりの可能性を信じ、支える環境づくりが着実に進んでいる。



