長野県男性がSNS投資詐欺の被害実態を赤裸々に告白
米IT大手メタ社が運営するソーシャルメディア上の偽広告をクリックし、多額の金銭を詐取される被害が後を絶たない。長野県南信地方に住む60代男性は、約2100万円をだまし取られた経験を振り返り、「まさかフェイスブックに詐欺広告があるとは思わなかった」と悔しさをにじませる。男性は現在、メタ社を相手取って損害賠償請求訴訟を起こしている。
巧妙な手口で信用を獲得していった詐欺師たち
事件の発端は2023年6月頃にさかのぼる。男性がフェイスブックで目にしたのは、「投資家村上世彰氏が運営する個人向けファンド」と称する広告だった。ちょうど土地売却で2000万円の入金が決まっていた時期で、男性はその資金を投資に回し、家の耐震工事や孫の教育費に充てようと考えていた。
「物言う株主」として知られる村上氏に以前から好感を抱いていた男性は、ためらいながらも広告に「いいね」を押した。その後、連絡はラインに移行。相手の日本語は流暢で、投資に関する知識も専門的、応答も迅速だったため、次第に警戒心が薄れていったという。
水素エネルギー新会社の未公開株購入を持ちかけられる
7月頃、村上氏を名乗る人物から、トヨタ自動車などの大手企業が参画するという水素エネルギー関連新会社の未公開株購入を持ちかけられた。男性は「宣伝していないが、多くの財団が投資している。公表されると株価が急騰するため秘密厳守を」という付言に引き込まれた。
「株式公開後、売却すれば約3倍のリターンが見込めるが、投資枠は限られている」といううたい文句に、男性は当初ためらったものの、「何かに挑戦するときはマイナス思考を持ってはいけない」などと励まされ、参加を決意した。
暗号資産を介した送金と精巧な偽アプリ
その後、男性は暗号資産サイトへの登録を促された。現金より送金がスムーズで手数料が安いことが理由と説明された。専用アプリで暗号資産を送ると、村上氏側が株を購入するという仕組みだった。
提供された投資アプリにはマイページが設けられ、資産額の推移や偽の投資記事まで確認できるなど、作りは極めて精巧だった。男性は2023年8月9日から9月12日までの約1カ月間、1回あたり100万~1000万円、計6回で約2100万円相当を送金した。
アプリが突然利用不能に、詐欺に気付く
9月20日、ライン上で売却方法が示されたものの、株式が公開されるとされた時期からアプリが突然利用不能になった。不審に思いラインを送信しても既読は付かず、連絡が途絶えた。
振り返れば、資産の推移はアプリ上でのみ確認しており、実際に株が購入されたかどうかは把握していなかった。「お金の流れは何もなかったが、信用してしまった」と男性は唇をかんだ。
警察相談から民事訴訟へ
警察に相談したが、「お金は返ってこない」と一蹴された。同居する長男には土下座で謝罪し、家の改修計画は白紙に戻り、資金面でも行き詰まった。
男性は「偽広告を放置したメタ社にも責任がある。企業のモラルが問われる」と考え、2024年6月に名古屋地方裁判所に、三重県や静岡県の被害者らとともに民事訴訟を提起した。ただし、被害額が弁済される見通しは立っていない。
「SNSでしか出てこない情報をもとに投資をしないでください。特に暗号資産を介するスキームは信用してはいけない」と男性は強く訴える。
メタ社の不正広告問題と集団訴訟の広がり
ロイター通信によると、メタ社は詐欺広告や禁じられた商品の不正広告から巨額の収益を得ていた疑いがある。2024年末時点で、年間売上高の10%に相当する約160億ドル(約2兆4500億円)と内部文書で推計していたという。
フェイスブックやインスタグラムでは、1日平均150億件に上る「より高いリスク」の詐欺広告が表示されていたとされる。
全国で広がる集団訴訟
メタ社運営のSNSに表示された詐欺広告を巡っては、名古屋、神戸、横浜など全国6か所の地方裁判所で利用者らが集団訴訟を起こしている。弁護団の堀貴晴弁護士(大阪弁護士会)によると、原告は63人、請求総額は約10億円に上る。
堀弁護士は「メタ社が詐欺広告を掲載し、削除しなかったことが注意義務違反に当たるかが争点。当時の偽広告の内容をどの程度まで特定できるかもポイントとなる」と指摘する。
著名人をかたる偽広告が多数放置
訴状などによると、実業家の堀江貴文氏や経済評論家の三橋貴明氏などの著名人が投資を呼びかける偽広告が放置されていた実態が明らかになっている。
メタ社の対応と警察庁の統計
メタ日本法人は取材に対し、「個別の訴訟に関してコメントはできない」とした上で、「規制当局や独立した第三者監視機関などから指摘を受けた場合、責任を持って調査し、詐欺と特定した広告には適切な対策を講じている」と説明。2025年には1億3400万件以上の詐欺広告を削除したとも述べた。
警察庁によると、特殊詐欺やSNSを介した投資詐欺、ロマンス詐欺の2025年の被害総額は前年比62.8%増の約3241億1100万円(暫定値)で過去最悪を記録した。