スキージャンプの飛翔メカニズムをスパコンで解明 風を制する7つのスタイル
スキージャンプ競技において、より遠くへ飛ぶためには風を味方につけることが極めて重要だと言われてきました。しかし、選手の飛び方の違いが空気の流れにどのような影響を与えるのか、定量的に把握することは長らく困難な課題でした。
世界レベルのジャンパー556回のジャンプを詳細分析
この難題に挑んだのが、理化学研究所と北翔大学、神戸大学からなる共同研究チームです。同チームは2023年から2024年にかけて、札幌市の宮の森ジャンプ競技場において、計74名の選手による556回のジャンプを10台のカメラで撮影。幅広いレベルや年代の選手を対象に、ジャンプ台の踏み切り直後から安定した飛行姿勢に至るまでの動作データを収集しました。
収集した膨大なデータを統計的に解析した結果、研究チームはスキージャンプの飛翔スタイルを7種類に分類することに成功しました。この分類には、小林陵侑選手ら世界トップクラスのジャンパーの特徴的な飛び方も含まれています。
スーパーコンピューター「富岳」による空気力学シミュレーション
さらに研究チームは、各スタイルにおいて選手の体が受ける空気の力を、スーパーコンピューター「富岳」を用いた高度なシミュレーションで解析。空気の流れとともにCGで再現した小林陵侑選手のジャンプでは、流れのスピードを色で示しており、赤に近づくほど速く、青に近づくほど遅いことを視覚的に表現しています。
このシミュレーションにより、異なる飛翔スタイルがどのように空気抵抗や揚力に影響を与えるのか、科学的に解明されました。例えば、あるスタイルでは風の抵抗を最小限に抑えつつ、別のスタイルでは揚力を最大限に活用するといった、各スタイルの力学的特徴が明らかになりました。
スポーツ科学とテクノロジーの融合が競技力を向上
今回の研究成果は、単に学術的な意義にとどまりません。選手やコーチが自身の飛び方を客観的に分析し、より効率的な飛翔技術を開発するための貴重なデータを提供するものです。特に、2026年ミラノ・コルティナオリンピックを目指す日本代表選手にとって、この科学的知見は競技力向上に大きく貢献することが期待されます。
従来、スキージャンプの技術は選手の感覚や経験に大きく依存していました。しかし、スーパーコンピューターを駆使した今回の研究により、「風を味方につける」という抽象的な概念が、具体的な数値と視覚化データとして提示されることになりました。これはスポーツ科学と先端テクノロジーの融合が、アスリートのパフォーマンス向上に直接結びつく好例と言えるでしょう。
研究チームを率いる北翔大学の山本敬三教授は、今後もデータの蓄積と分析を続け、より多くの選手が科学的根拠に基づいたトレーニングを行える環境づくりを目指すとしています。スキージャンプという伝統ある冬季スポーツが、最新の計算科学によって新たな進化を遂げようとしています。