労働力不足の時代に「眠れる宝」が注目される背景
深刻化する労働力不足への対応として、政府や企業はAIを搭載したヒト型ロボットの開発や外国人労働者の受け入れに力を入れている。センサーを用いて自律的に作業するロボットや、2027年度から始まる「育成就労制度」による未熟練外国人の受け入れは、労働力不足を補う重要な手段として期待されている。
「不足」を「希少」と捉える新たな視点
しかし、権丈英子・亜細亜大教授は、労働力の「不足」を単なる問題として捉えるのではなく、「希少」と見なすことで、社会全体で貴重な労働力を大切にする意識を高めるべきだと指摘する。開発経済学の「ルイスの転換点」に似た状況が日本でも見られ、労働市場の逼迫が賃金上昇や働き方の柔軟性向上、生産性の向上につながる可能性があるという。
企業は、労働力不足を機に自己変革を進め、生産性向上や働き手に選ばれる職場環境の整備に取り組むことが求められる。新技術や外国人労働者の活用は、こうした改革の芽を摘まないように慎重に行うべきだ。
高齢者と女性の「眠れる宝」としての潜在力
2025年の労働力人口は初めて7000万人を超え、その増加を牽引したのは高齢者と女性だった。しかし、能力の活用という点ではまだ伸びしろがあるとされる。日本老年医学会によると、現代の高齢者は昔に比べて10歳ほど若返っており、豊富な知識や経験が十分に生かされていない現状はもったいない。
高齢者が働く際の障壁として、「年齢の崖」による給料の大幅な減少や「年金の壁」による厚生年金の減額が挙げられ、これらは働く意欲を低下させる要因となっている。
女性については、働く人数は増加しているものの、低賃金で不安定な非正規雇用が多く、能力が十分に発揮されていないケースが多い。特に、地方から都市部への若い女性の流出は、結婚や出産への社会的圧力が強い地域に留まりたいと思う女性が少ないことを反映しており、労働力需給の改善には制度だけでなく、地域の風土や意識の変革も必要だ。
社会全体での労働力の活用に向けて
さらに、貧困や虐待、孤独などの「生きづらさ」が自殺や引きこもり、犯罪といった形で表れる現実も無視できない。本来、社会の中で生かされるべき労働力が失われることは、個人の生きがいや社会貢献の機会を奪うことにつながる。
労働力不足の解決には、AIや外国人労働者への依存だけでなく、国内の「眠れる宝」である高齢者と女性の能力を最大限に活用する取り組みが不可欠だ。希少な労働力を大事にし、働きやすい環境を整えることで、持続可能な社会の構築を目指すべきである。



