東京23区内で最北端に位置する鉄道駅、日暮里・舎人ライナーの見沼代親水公園駅(東京都足立区)から埼玉県草加市へ向かう路線バス「草加22」系統が、2026年3月31日をもって運行を終了することが決定した。このバスは、東京と埼玉を結ぶ貴重な公共交通手段として2008年のライナー開通と同時に運行を開始したが、利用者減少や運転手不足などを理由に廃止に至った。
最北端の駅から埼玉へ 細い道を縫うバスの旅
見沼代親水公園駅は、無人運転の新交通システム「日暮里・舎人ライナー」の終点に位置し、駅周辺は広々とした道路と低層住宅が広がる。ここから東武バスセントラルが運行する「草加22」は、約5キロの距離を草加駅西口まで結んでいる。バスは大通りからすぐに住宅街へ入り、野菜栽培用のビニールハウスが点在する風景の中を、対向車とのすれ違いに注意を払いながら細い道を進んでいく。
車両は小型で、座席数は11席のみ。ある日の運行では、乗客は15人ほどが乗車し、立っている人も見られた。廃止が迫る中、乗客の反応は様々だ。高齢の男性は「誰も乗っていないから、誰も困らないよ」と淡々と語り、一方で、月に1、2回病院通いに利用する83歳の女性は「なくなったらタクシーを使うしかない。1時間に1本でいいから続けてほしい」と切実な思いを口にした。
開通の立役者 市議の吉沢哲夫さんが振り返る
草加22の開通には、元東武バス運転手で現在草加市議を務める吉沢哲夫さん(88)の尽力があった。吉沢さんは、日暮里・舎人ライナーの開通を知り、東武バスに新路線の設置を働きかけた。住宅街を通るルートの提案や小型バスの採用にも関与し、2008年3月30日の開通日には第1便が出発した。
吉沢さんは開通後も自らバスに乗り、細い道での運転の課題などを確認してきた。廃止の報を聞いたのは年明け前後で、市に補助金を出すよう働きかけたが、実現しなかった。「廃止の理由はカネだけではなく、運転手不足も理由だそうだ。市民からはなんとかしてほしいとの声も届くが、時代の流れでどうしようもない」と寂しそうに語る。
利用実態と廃止の背景
草加22系統は1日7本のみの運行で、日中には3時間もバスが来ない時間帯がある。かつては30分に1本走っていたが、近年は本数が減少していた。草加駅へは別の路線バスも存在するが、運行時間が長く経路も異なるため、草加22を日常的に利用する住民には代替手段として十分とは言えない状況だ。
廃止の直接的な理由として、東武バスセントラル側は利用者数の減少を挙げている。また、全国的な課題である運転手不足も影響しており、採算性と人員確保の両面から運行継続が困難と判断された。野菜の直売所で働く63歳の女性は「普段使わないけれど、なくなるのは寂しい。地域の風景の一部が消えるようだ」と感慨深げに話した。
地域交通の未来と住民の思い
廃止まであとわずかとなり、住民の間では複雑な感情が広がっている。便利な交通手段が失われることへの不安と、利用者が少ない現実を前にした諦めが交錯する。吉沢市議は「もう一度バスに乗るつもりだ」と語り、16年にわたる路線の歴史に別れを告げようとしている。
この廃止は、都市部と隣接県を結ぶローカル路線が直面する課題を浮き彫りにした。人口減少や運転手不足が進む中、公共交通の維持はますます難しくなっており、地域ごとに持続可能な交通網の再構築が求められている。



