アベノミクスや「異次元の金融緩和」をもってしても動かなかった日本の物価は、2020年代に入り、覚醒したかのように上昇気流に乗った。その引き金を引いたのは、疫病や戦争という「外からのショック」だった。そして今、中東のホルムズ海峡危機という新たなショックが直撃。以前とは逆に、制御不能なインフレ(物価上昇)への不安が高まっている。
この事態をどう理解すればいいのか。物価研究のエキスパートとして知られる渡辺努・東京大学名誉教授に詳しく聞いた。
グローバル化の逆流が物価高を加速
――ホルムズ危機に限らず、グローバル化の逆流が物価高を加速させる流れが続いています。
「グローバル化の時代、安く良質な労働力を求めて企業がいろんな国に進出しました。その結果、日本に限らず商品も安く買える時代が続きました。それがブレグジット(英国の欧州連合〈EU〉離脱)や新型コロナ、様々な戦争、トランプ関税に代表される『脱グローバル化』の波によって反転しました。賃金も価格も上がる動きが21年からまずは欧米で広がり、そして22年以降は日本にも流れ込みました」
「イランでの戦争もその続きです。長引けば、これまで同様に世界インフレを起こすでしょう。残念ながら世界の政治情勢の不安定化は簡単には収まらないでしょうし、であれば経済的な脱グローバル化も進む。また何か今回のようなショックがあれば、常にインフレ方向に作用することになるのだと思います」
日本は物価をめぐる「二つの病」だった
――物価が上がり始めた22年ごろの段階では、日本は海外に起因する「急性インフレ」と長年の持病である「慢性デフレ」という二つの病に同時にかかっていると診断していましたね。
「日本のインフレには大きく二つの波がありました。輸入物価の上昇を起点とした最初の波は、23年夏にピークに達しました。その波が徐々に弱まると、次は賃金や物流コスト増など主に国内要因によるインフレが25年夏にピークを迎え、それらの勢いが落ち着いてきたところでした」
「日本銀行がめざす2%の物価上昇に、うまく着地できる見通しになっていたと思います。資源高を原因とした急性インフレでも、慢性デフレでもない。そういう状況がやっと見えてきたところで、イランでの戦争が始まったのです」
11年間の異次元緩和「要は失敗」
――その慢性デフレから抜け出すために日本銀行は24年まで約11年間にわたり異次元緩和を続けたわけですが、インフレが始まったのは新型コロナとウクライナ戦争という外的ショックがきっかけです。結局のところ、異次元緩和とは何だったのでしょうか。
「異次元緩和はインフレにはほとんど寄与しなかった。要は失敗したのだと思います」
――うまくいかなかった理由は。
「二つあります。一つはイン…」
この記事は有料記事です。残り2831文字。有料会員になると続きをお読みいただけます。



