東京大学と日本電信電話(NTT)などの研究チームが開発した国産量子コンピューター「叡(えい)」が、特定の計算問題において世界最速の処理速度を達成した。この成果は、量子コンピューターが従来のスーパーコンピューターを凌駕する能力を持つことを示す「量子超越性」を実証するものであり、今後の産業応用への大きな一歩となる。
世界最速の計算性能
研究チームは、量子コンピューターの性能評価に用いられる「ランダム回路サンプリング」と呼ばれる問題で、叡が53量子ビットの処理において、世界最高性能を記録したと発表した。この結果は、米グーグルが2019年に達成した量子超越性をさらに上回るもので、量子コンピューターの実用化に向けた重要なマイルストーンとなる。
叡の特長と技術的優位性
叡は、超伝導方式を採用した量子プロセッサを搭載しており、極低温環境下で動作する。NTTが開発した独自の量子ビット制御技術により、従来よりも高いゲート fidelity(エラーレートの低さ)を実現している。また、東京大学が開発した誤り訂正技術との組み合わせにより、計算の信頼性が大幅に向上した。
産業応用への期待
今回の成果は、創薬や新材料の開発、金融リスク分析、人工知能(AI)の高度化など、幅広い分野での応用が期待される。特に、量子コンピューターは分子レベルのシミュレーションに強みを持ち、新薬の開発期間短縮や高効率バッテリーの設計など、社会課題の解決に貢献すると見られる。
研究チームは、叡の性能をさらに向上させるため、量子ビット数の増加やゲート fidelity の改善に取り組む方針だ。また、クラウド経由で叡を利用できる環境を整備し、企業や研究機関が量子コンピューターを活用しやすいプラットフォームを提供する計画である。
日本の量子技術戦略
日本政府は、量子技術を国家戦略の柱の一つに位置づけており、2023年度には量子技術関連予算を大幅に増額した。叡の開発は、文部科学省の「量子技術イノベーション拠点」プロジェクトの一環として進められてきた。今回の成果は、日本の量子コンピューター開発が世界トップレベルにあることを示すとともに、今後の国際競争力強化に寄与するものと期待される。
専門家は、量子コンピューターの実用化にはまだ課題が多いと指摘するが、叡の成果は日本の研究開発力の高さを証明した。今後、産学官連携をさらに強化し、量子技術の社会実装を加速させることが求められる。



